大北のブログ

生きねば。

ゴルフ知らないのに書くゴルフ小説4

プロテストに合格してからの光弘の生活は一変した。まず運転手がついた。これはみな協会から派遣されるものである。大事なプロゴルファーに交通事故でもおこされた日にはイメージ的にもなにより人材としてもゴルフ業界は痛手である。そうならないように、協会は運転手をつける。余談ではあるが、この運転手はなるだけ歯が出ているものが採用される。そして決まって語尾が"ヤンス"第二人称が"旦那"となるような言葉遣いを訓練させられる。こうしてできあがった小物感あふれる人材を横にそえておくだけで、ゴルファー本人が大物に見えるというわけだ。これも協会がつちかってきたプロゴルファーを育成するノウハウである。

「光弘さんでヤンスか~。へっへっへっ、よろしくおねがいしやすぜ、旦那」

砂萩と名乗る運転手とはじめて会った日、光弘は砂萩をゴルフクラブでめった打ちにした。その言葉遣いと何よりいやらしく光る白い前歯に腹が立ってしょうがなかったのだ。

「痛いでヤンス、痛いでヤンスよ~」

そう言って体を丸めていた砂萩の顔からも次第に笑顔が消えていった。光弘の主戦場がティーグラウンドであるように、砂萩の戦場は光弘との今ここなのだ。何も言わなくなった砂萩が赤く染まっていくころ、異変に気づいた食堂のおばちゃんとその常連に光弘はとりおさえられていた。幸い救急車はすぐ来た。救急隊員の手によってタンカにのせられた砂萩は目をつぶったままでぶつぶつつぶやいていた。

「痛いでヤンスよ、旦那……」

光弘はクラブを握るその手にふたたび力が入るのを感じた。(つづく)