大北のブログ

生きねば。

ゴルフ知らないのに書くゴルフ小説5

 光弘は荒れていた。毎晩酒を飲んではくだをまいていた。念願のプロテストに合格したというものの、一向にデビュー戦が決まらなかったのだ。たしかに光弘はプロテストを二位以下に圧倒的な差をつけて突破した。そのうわさに尾ひれがついて広まってしまい、みな二の足を踏んでいる。実際は棒状のものを持っていたのがバットを持っていた光弘だっただけにもかかわらず……2ケタ以上引き離されたスコアだけがひとり歩きしている。

 今日も一軒目からウイスキーを頼もうとしていたときだった。「やめなよ、光弘ちゃん。最初っからそんな強い酒飲むなんて」「うるせえ、酒なんてな、コロコロ変えるから悪酔いするんだ。どうせ最後はウイスキーだ、最初っから飲めば関係ねえや! おばちゃん、おひやジョッキ一杯!」「やめなよ、みんな最初はビールだろう? おひやもいいけどこんなジョッキで飲んじゃ体冷やしちまうよ」「うるせえよ、おばちゃんは知らないだろうけどな、これはチェイサーっていうんだよ! こうやってほら、ウイスキーをひとなめしたら水をグイグイ飲んで……プハーッ。おばちゃん、おひやもう一杯ジョッキで!」「やめな光弘ちゃん! うちはあんたに飲ますおひやはないよ!」「何言ってんだばばあ、同じ酒にしてもチェイサーにしても、テレビの情報番組でやってたんだよ! お~い、良質のタンパク質とれるように鶏ササミぶっといの一発たのむよ~」「いいかげんにしなっ!」

 食堂のおばちゃんは光弘の頬を張った。もんどりうって倒れる光弘と静まり返る店内。「いいかい? それでつぶれてきたゴルファーあたしゃ何人も知ってんだよ! そんでそんなゴルファーに泣かされてきた女も何人も知ってんだよ!」「おばちゃん……もしかして」静かになった食堂にテレビの音だけが響いている。

「……以上、光弘選手のデビュー戦が決まりました。相手は前年度日本チャンピオンのボイジャー後藤選手です」(つづく)