大北のブログ

生きねば。

ゴルフ知らないのに書くゴルフ小説3

光弘のバットが空を切った。ゴルフクラブに比べて30cm以上も短いバットである。同じ感覚でスイングしたところでボールには届かなかった。

そんな光弘を同組の柴田が鼻で笑いながら自分のショットにむかった。柴田のクラブは絹ごし豆腐一丁。キャディーにセットしてもらったピンとボールに、大事そうに抱えた豆腐一丁をずずいと前に出しぶつけた。ズブッとした感触とともにボールは豆腐にめりこみ、そのまま突き抜けもせず前方へだらしなく落ちた。数十cmといったところだろうか。

続く田邊も虫眼鏡を器用にあてて数十センチ。柴田と田邊がハイタッチを交わす。この二人にとっては会心のショットであるようだ。一番最後の番となった全身黒ずくめの田中はキャディに頼み昆虫ゼリーをカップに仕込んでいってもらっていた。キャディからの合図をうけると、田中はあのガサゴソと音が聞こえるなぞの箱を開けた。中からあらわれたのは体長5cmに満たないほどのコクワガタだ。コクワガタをボールにのせ、そのままゼリーのあるカップまで運んでいってもらう作戦だった。田中が手を放すと同時にボールからコクワガタが飛び立ち、そのまま林の方に向かっていってしまった。ボールは前にポトリと落ちた。飛距離は数センチといったところだろう。田中は林に消えていくコクワガタの軌道をじっと見ていた。

光弘の快進撃はここからはじまる。クラブとバットの長さのちがいを意識したスイングで、ナイスショットの連続である。硬い棒状のものを持ったものが光弘だけだったのも功を奏し、光弘はトップに躍り出てそのまま優勝をかざった。

「まっすぐ打てば、まっすぐ飛ぶんだよね……」

光弘は父のことばを思い出すと念願のプロゴルフテスト合格証書で顔をかくしそのまま林の中へ入っていった。光弘が泣いているところを見たのはコクワガタだけであった。(つづく)