大北のブログ

生きねば。

ゴルフ知らないのに書くゴルフ小説6

 ボイジャー後藤。その名を知らぬものはいない日本ゴルフ界の重鎮である。1980年代に彗星のごとくあらわれ、またそのあらわれ方があまりにも彗星らしかったので探査衛星にちなんでボイジャーの名がついた。デビューして30年になろうとしているが未だに第一線で活躍している。なかでも昨年のボイジャー後藤は調子がよかった。近い関係者ならみな知っていることであったが、ボイジャーは恋をしていたのだった。ボイジャーは毎晩意中の人のことを考えて枕に顔をうずめた。もし告白されたら……なんて考えては「やんだー」と口走って足をバタバタとさせていた。ある日ボイジャーは口ではいやだいやだと言いながら本心ではまったくいやがってない自分に気づいた。そうか、これだとボイジャーは思い当たった。この精神状態がもっともゴルフに適しているのだ。「やんだー」と口走りながらもホールインワン。ボイジャーはうれしくてしょうがなかった。パッティングは特にさえた。一発でしとめたときはボイジャーは飛び上がるほどうれしく、また同じくらい恥ずかしがった。ボイジャーはグリーン上で照れに照れた。グリーンの一点を人差し指でもじもじしすぎて、もうひとつのカップを作ってしまったほどだ。齢60に迫ろうとし極まったはずの技術が恋によってさらに向上したことはボイジャーにとっても驚きだった。

 そんなボイジャーが光弘の相手に名乗りでたのは、かつての自分のように才能のある若い芽が今まさにつぶれようとしているのを無視できなかったからだ。ボイジャーは誰も手を挙げなかった対戦相手に照れながら名乗りでた。決戦は一週間後。そうテレビで告げたボイジャーは耳まで真っ赤だった。(つづく)